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紀南抄「お燈祭りの火を見つめる」

 火。小学生のころの実家は、山の麓、住宅街から一本外れた林道を進んだ森の中にあった。そこには開けた空間があり、父がセットした焚(た)き火とバーベキューのコーナーを使って年に何度も、何人も客人を招き、談笑を交わしたものであった。好きだったのは、食事が終わり人数の少なくなった時に訪れる、ただ火を囲って見つめるあの時間であった。
 
 お燈祭りが6日にあった。私が人生で初めて見るお燈祭りは、上り子不在の中、滔々(とうとう)と燃える松明の火がぼんやりと神倉神社の麓の境内を照らし、神職と介釈が粛々と手続きを進める、そんな静かなものとなった。
 
 上野宮司は、古代の人々の心、神様からの伝言を受け、今に表すことがこの祭りであるとした。それは上り子のいる、いないにかかわらないと。人が火と出会ったのは太古の昔。水の恵みに生かされるように、火の守りに生かされている。
 
 幼いころから感じている、その揺らめきと近づくほどたしかになる熱感の中にあるものには、「神性」という言葉以上の表現が見いだせない。宮司が言った「神魂(かもす)の火」は、熊野に煌々(こうこう)とともっている。
 
【稜】

      紀南紗

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