陽の傾いたいつもの道。取材から帰り会社の駐車場へ向かう小道の風景が、だんだんと自分の中に”ありふれた風景”として定着してきているのを不思議にも実感し、温かみを感じている。
人の記憶には種類がいくつかある。大きくは数十秒間保持できる「短期記憶」、何十年も保持できる「長期記憶」、最も短い「感覚記憶」に分かれる。長期記憶はさら言葉で表せるかどうかで「陳述記憶」「非陳述記憶」に分かれる。陳述記憶は言葉の意味を覚える「意味記憶」と出来事や体験を覚える「エピソード記憶」に分類される。非陳述記憶の代表例は作業記憶(手続き記憶)で、例えば自転車の乗り方のように言葉にできなくても体が覚えているようなものがそれに該当する。
原風景やおふくろの味など、無意識にも蓄積されている記憶がある。そういったものがふとした瞬間にフラッシュバックし、心を温かく締め付けるという体験を、特に二十歳を超えてから何度もするようになった。どれだけのものを覚え、どれだけのことを忘れるだろう。今見ているありふれた風景が、いつか懐かしくなる時が来る。そうしてやがて夜が訪れる。
【稜】