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紀南抄「大水害から10年」

 ちょうど10年前の9月4日。私は新宮市の実家で呆然としていた。相野谷川近くの自宅が水没したという知らせを聞いたからだ。

 子どもが小さかったため、台風のたびに毎回高台にある実家に避難していた。子どものいとこもいつも避難してきており、どこか遊び半分の気持ちがあった。あの時もそうだった。しかし刻一刻と悪化する状況に、次第に平常心ではいられなくなった。

 いてもたってもいられず、翌日車で自宅を目指した。しかしまだあちこちで冠水しており、たどり着くことはできなかった。自衛隊員がボートで救助している姿が印象的だった。

 幼い子を連れての決死の避難、徐々に水が迫る中で間一髪のボートでの救助劇、建物につかまって夜通し濁流に耐えた話など、たくさん聞いた。それに比べて私は恵まれていた。寝泊まりする場所もあった。翌日に熱を出して、片付けの初動に参加できなかった負い目もあった。多くのものを失ったことには変わりないが、あの恐怖を直接体験していないから、本当の被災者とは言えないのではないか。

 きっとそんなことはないのかもしれないが、10年たった今でも時々ふと思い出す。

【織】

      紀南紗

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