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紀南抄「春の雨」

 春風が、温かさと雨を運んできた。「春雨(はるさめ)」というと、食いしん坊な脳裏にはサラダやスープがよぎるが、「3月下旬から4月ごろ(旧暦の2月末から3月)にかけていつまでも降り続く地雨のようなしっとりとした雨」という、季節の用語としてもきちんとあるようだ。春の雨を言い表す言葉は思いのほか多い。

 春に降る時雨(しぐれ、晴れたり降りだしたりを繰り返す雨)は「春時雨」、桜の時期に降る時雨は「花時雨」というらしい。春先にしとしとと降る霧雨(きりさめ)は「小糠(こぬか)雨」、桜の花にかかる雨や、桜が咲く3月下旬~4月上旬に降る雨は「桜雨、花の雨」。3月から4月にかけてぐずつく雨のことは「春霖(しゅんりん)、春の長雨」とも呼ばれる。冬に積もった雪を解かすように降る雨は「雪解(ゆきげ)雨」、花の育成を促す雨は「催花雨(さいかう)」とされる。
 
 冬の乾いた空気が潤い、雨が芽吹きをもたらし、冬枯れに絶えた命を悼むように、また新たな生命の時代を祝うように花の季節がやってくる。移ろいに座す日本人の感性が、言の葉に咲く。
 
【稜】
 

      3月28日の記事

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