太地町立くじらの博物館でクジラの歯みがきの取材をさせてもらった。私を含めたくさんメディアが来てカメラを構えたので、歯みがきを体験した園児も、取り囲まれたクジラもさぞ疲れたことだろう。
いけすのふちに立った私の目の前を泳いでいたクジラと目が合った。水面に沿って体を横に寝かせるように浮かせ、水から出た片方の目でじーっと見つめられたので、私もじーっと見つめ返していた。少し経つと飽きたのか、ぷいとどこかへ泳いでいってしまった。お互い声も発しなかったが、何かコミュニケーションを取ったような不思議な感覚に包まれた。
鯨類と人類は何か遠いところでつながっているように思う。素潜りで伝説を築いたジャック・マイヨールの著書「イルカと、海へ還る日」では、ジャックと1頭のイルカとの絆が描かれていた。ある日久しぶりにそのイルカがいる水族館へ寄ったジャックは、水族館へ入った瞬間に、確認するまでもなく「親友」がこの世を去ったことを悟る。言語を超えたコミュニケーションがそこにあったのだろう。
クジラがあれだけ協力してくれたのだ。私も歯みがきを頑張ろうと思う。
【稜】