和歌山、三重、奈良の3県で死者・行方不明者88人を出した平成23年9月の紀伊半島大水害(台風12号災害)から今年で丸10年になる。決して風化させてはいけない。
自治体の中には大水害を経験していない職員の割合が高くなってきたところもある。災害時の基本は自助・共助・公助の順番であるが、住民への啓発や避難所準備などの面で各自治体には責任を持って取り組んでもらう必要があり、新型コロナウイルスへの対応もあるが、職員一人一人が当時の教訓を振り返り、備えてもらいたい。
これから大雨や台風の時期になり、また、いつ発生するか分からない南海トラフ地震への備えも忘れてはいけない。現在、国や各自治体、さらに住民もコロナワクチン接種の早期完了へ意識が傾いている状況だが、自然災害から命を守る意識も頭の片隅には入れておいてもらいたい。
災害の危険性がある時に命を守る行動をとるには、事前準備とあわせて正確な情報の入手が不可欠。気象庁は紀伊半島大水害をきっかけに、重大な災害の危険性が著しく高まっている場合に発表し、最大限の警戒を呼び掛ける大雨等の特別警報の運用を始めた。呼応して、各自治体が出す避難指示のタイミングが早くなっている。空振りに終わっても、まずは最善を尽くすことが大切で、自然相手に教科書通りの答えはない。
一方で、住民の間では自治体が出す避難勧告と避難指示の違いがどうも分かりづらく、かえって迷いを生じさせていたケースも少なくなかった。そこで国は先月20日から、避難勧告を廃止し、「避難指示」に一本化した。従来の避難勧告のタイミングで発表され、危険な場所にいる人は全員、避難が必要になる。また、和歌山地方気象台は8日から、県内の大雨警報・注意報、洪水警報・注意報の発表基準を見直した。最新の大雨災害のデータを取り込んだことによるもので、より的確な発表になる。
このように情報課題は改善されつつあり、あとは正確な情報を入手するための手段、それは情報弱者を生み出さないこと。いくら最新データを取り込んでも伝える手段が必要だ。防災無線もあるが聞こえにくければ意味がない。新宮市で見れば、まずは高田や熊野川町など山間部の高齢者からでも防災ラジオなどの配布が進めば住民の安心感は増すだろう。コロナ禍2年目の夏も油断することなく、過ごしてもらいたい。