工事関係者が奉仕作業
新宮市熊野川町田長
新宮市熊野川町田長の国道168号沿いにあり、長年にわたり地域住民に親しまれていた樹齢100年近いとみられる名木「クマノザクラ」が、和歌山県による道路維持修繕工事に伴い、向かい側の土地に移植された。当初は工事に合わせて伐採される計画だったが、地元住民らの要望を受けて工事関係者が全面的に協力し奉仕で作業した。
クマノザクラは日本に自生するバラ科サクラ属の野生種で、2018年に約100年ぶりにサクラの新種として発表された。紀伊半島南部の和歌山、三重、奈良の3県に分布し、早咲きで花が美しいことから、鑑賞用の利用が期待されている。
日本クマノザクラの会によると、田長のクマノザクラは「たなご春告ザクラ」と紹介する一本桜。高さは約10メートルで、国道に枝垂れるように枝を広げていたため、開花シーズンに車で通るとよく目立っていた。クマノザクラの中でも特に花の色が濃くて美しい個体という。
一方で、国道168号の法面(のりめん=斜面)に生えており、台風や大雨時には土砂崩れの危険があることから、県は法面強化の工事を計画。土地所有者からの相談を受けた日本クマノザクラの会が1年以上前から移植の可能性などを県東牟婁振興局新宮建設部に掛け合っていた。こうした中、今回の工事を受注した雅建設(新宮市)と、協力会社の熊野重建(新宮市)が地域貢献の一環として、移植作業をボランティアで行うことを申し出た。
作業は今月5日に実施。移植の際に支障となる枝を切り落としたあと、重機で根元を掘り起こし、クレーンで慎重に吊(つ)り上げ、移植場所となる奥田石油店横の土地に下ろして植え付けた。
クマノザクラの会の田尾友児副会長は「田長のクマノザクラは地元に愛され、また、新宮市内では珍しく間近に見ることのできる個体として知られていた。しかし、道路沿いに生えており、安全対策のためには工事が必要で伐採も止むなしということだったが、地元住民の熱意と工事関係者の全面協力により移植という形で残すことができてうれしく思う」と話した。田尾副会長によると、今回のように木が眠っている冬時季の移植が望ましく、順調に根がつけば3月中旬以降に開花するという。
所有者の奥田矩生さんは「協力いただいた工事関係者、クマノザクラの会の全ての方に感謝したい」と話した。
※開花の写真は日本クマノザクラの会提供、残る写真は工事関係者提供