世界遺産登録20周年記念「西国第一番札所落語会−熊野三部作披露−」が11月23日(土・祝)、那智山青岸渡寺「信徒会館」で行われる。熊野をモチーフにした「熊野詣」「三枚起請」「宗珉の那智の滝」の落語三席を披露する。主催する「熊野落語を愛する会」代表の熊野家三九郎さんや出演者の桂坊枝さん、桂枝曾丸さんらが18日、同所で記者発表した。
上方落語には旅道中を題材にしたネタは多くあるが、熊野詣に関するネタはほとんどない。桂米朝師匠と五代目桂文枝師匠の見解によると、熊野詣は命がけの旅であったため、笑いにつなげられなかったのではという。
「紀伊山地の霊場と参詣道」の20年前の世界遺産登録を機に、五代目桂文枝師匠が病魔に侵されながらも何度も熊野に足を運び、2年半かけて「熊野詣」を創作。当時、制作活動に同行していた三九郎さんが発起人となり、今年20周年を迎えるにあたり、熊野の持つ信仰の聖地としての特異性を改めて広く知ってもらうことを目的に落語会を開催する。
熊野三部作は、熊野の「八咫烏」「護符」「滝」をそれぞれテーマにした作品。「熊野詣」を枝曾丸さん、「三枚起請」を坊枝さん、「宗珉の那智の滝」を三九郎さんがそれぞれ演じる。
記者発表には出演者のほか、青岸渡寺の高木亮英住職、那智勝浦町の堀順一郎町長が出席した。
高木住職は「闘病のさなかに先代の文枝師匠が青岸渡寺にお越しいただいた時に、西国第一番札所の御詠歌を落語の中に入れていただけないかとお願いしたら、大変ありがたいことに取り入れてくれた。今回記念すべき年に一門の方々にお披露目いただける。落語を通して那智の滝を知っていただき、まちの活性化につなげていけることを願っています」。
堀町長は「世界遺産登録20周年の記念の年に、那智の滝を借景に熊野を舞台にした落語を披露していただける。今一度、熊野の素晴らしさを特に地元の人に再認識してもらい、自信を持ってもらえる落語会になると思う。多くの人にお越しいただきたい」。
坊枝さんは「文枝師匠は、自分は古典落語を後世に引き継ぐ役割があると言っていたため、創作落語は『熊野詣』1作のみ。熊野の素晴らしさに魅せられて、最初で最後の創作落語を作った。私が演じる『三枚起請』は文枝師匠も十八番にしていた。一生懸命稽古中。熊野とのご縁を大事に精いっぱいがんばりたい」。
和歌山市出身の枝曾丸さんは「師匠が思い入れのある『熊野詣』をいつかやりたいと思っていて、数年前に地元で発表させていただいた。今回、聖地でさせていただくことが夢のよう。熊野へ来ると包みこんでくれるような安心感がある。熊野の素晴らしさを落語を通じて伝えたい」。
三九郎さんは「文枝師匠が那智の滝を見つめて、『熊野の神様が私に落語を作れと言うてはるわ』とつぶやいた言葉が耳にこびりついていて、今でも涙が出そうになる。命をかけて作っていただいた。私が披露する「宗珉の那智の滝」も熊野にとっては貴重な落語。消滅してしまう危機感もあり今回、改題して地元から改めて披露させていただきます」とそれぞれコメントした。
会場からは那智の滝が見渡せるロケーション。当日は午後2時開場、同2時30分開演。入場料が必要で、チケットは現在、新宮市観光協会などで販売中。詳しくは熊野家三九郎さん(電話090-8885-5165)。
『熊野詣』
20年前の世界遺産登録を機に、五代目桂文枝師匠の手により世に送り出された創作落語。カラスを大変かわいがった女房の死後、その魂を弔うために京都から熊野へと詣でる親子2人連れの道中記。(庶民の熊野詣)
『三枚起請』
上方・江戸両方に残る熊野に関連する唯一の古典落語。熊野信仰伝播のひとつのツールであった熊野牛玉宝印を身請け証文として利用した遊女の噺。(熊野信仰の広がり)
『宗珉の那智の滝』
江戸落語の大ネタとして継承されている噺で、本来「宗珉の滝」という演目であるが、この滝が紛れもなく那智の滝を指していることから、「宗珉の那智の滝」と改題し披露。師匠から勘当された腰元彫りの彫師が、那智の権現様に導かれ21日間の滝修行に耐えることで、眠れる才が開眼するという熊野の神髄が盛り込まれた大変貴重な古典落語。(甦りの地)