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紀南抄「宇宙の話をしよう」

 「宇宙兄弟」という漫画が好きである。まっすぐに夢を追いかけ宇宙飛行士になった弟に対し、途中で一度諦めてしまった兄が社会人から再度宇宙を目指す。特に好きなシーンは、兄が殺伐とした宇宙飛行士試験で周囲の受験者たちに「宇宙の話をしよう」と呼びかけるところだ。監視された閉鎖空間で2週間作業をこなしていく試験。競争心もあおられどんどん空気が悪くなる中、こんなに宇宙好きの人が集まっているのが内心はうれしかったのだと打ち明け、みんなを引き付ける。
 
 これはさながら、ソ連との冷戦の真っただ中にあって「われわれは月に行くことを選んだ」と語った当時の米国大統領、ジョン・F・ケネディのようである。軍拡の緊張感による人々のフラストレーションは、技術革新への期待として宇宙へと向けられた。
 
 失敗から1年後、日本のH3ロケットが打ち上げに成功した。再三にわたる延期の末、串本町からの民間ロケット初号機も3月9日に打ち上げを予定している。「宇宙の話をしよう」。単純なわくわくでいいのだと思う。それがあれば、人は見上げることができるのだ。
 
   【稜】

      2月19日の記事

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