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紀南抄「本宮祭」

 熊野本宮大社の例大祭「本宮祭」で、湯登神事と本殿祭を取材させてもらった。熊野信仰の中心にあたる大社の例大祭だけあって、新型コロナウイルス感染症によって制限された中でも、多くの人の祈りがそこに集まっていくように思えた。

 九鬼家隆宮司が本殿祭で奉納した神楽「熊野」は、現代人にも伝わりやすいようにと考案されたものという。榊(さかき)による風で四方を清め、最後に中央で太陽を迎える。今年はコロナ終息や世界平和、人々の平穏無事を祈った。所作の一つ一つが丁寧かつダイナミックで、祈りの形として美しかった。

 祈りにはいろんな形があるのだなあと、しばしば感心する。これは私の妄想だが、祈りの原点は遠い昔の人たちが「今年は食べ物がよくとれてほしい」「あの人の病が治ってほしい」などと願い、わらをもすがる思いで神のような存在をたたえたことなのではないだろうか。それが歴史とともにコミュニケーションのための形を成したと考えている。

 人々の純粋な思いが本宮祭を形作る。熊野とは何か。本殿祭のあの異質な空間で頭を下げただ祈りをささげる人々の姿に、その片鱗を垣間見た。

【稜】

      4月18日の記事

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