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紀南抄「なぎ」

 友人の形見の名刺入れに、取材先でいただいた梛(なぎ)の葉を入れている。褪せた色もつやつやの触り心地も好きで、たまに取り出してはにやにやしている。

 梛は熊野速玉大社のご神木で、葉は縦方向に葉脈があり横に切れにくいことから縁結びにご利益があるというのは有名だが、私はその名前の響きも好きである。「なぎ」。「凪」と読み替えれば、風の止んだ穏やかな波の海面から、平穏無事の象徴とも考えられる。

 鳥取に「那岐(なぎ)神社」があるが、主祭神は熊野速玉大社も祭る伊邪那岐の尊(いざなぎのみこと)。「草薙の剣(くさなぎのつるぎ)」の言い伝えも考えると、「ナギ」はわりと古い言葉なのだろう。日本の古語ではヘビの意味があるという。沖縄の言葉では「虹」だとするサイトもあるが、真偽は不明。ただ、宮古島の言葉で虹は「ティンバウ」と言い、「天の蛇」を意味するらしい。

 人とのご縁を思い入れていた名刺入れの1枚の梛の葉が、言葉とのご縁もつないでくれる。生まれ消ゆるしぶきのような浮き世のひと時の仮住まいが、凪ぐ海のように穏やかな日々でありますように。

【稜】

      8月26日の記事

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