• 備えあれば
    冬の入浴 事故に要注意!
  • 介護特集
  • クマ目撃情報
    新宮市・北山村
  • 本日の新聞広告
  • 17時更新
    三重 東紀州ニュース
  • 17時更新
    和歌山 紀南地方ニュース
  • イベント情報

紀南抄「滝に行く」

 じゃぼん。水の中。瞬間、ゾクリと全身が皮膚の下から裏返るような冷たさに、感覚が拓(ひら)き、時が遅れる。目、耳、鼻、舌、肌。五感の全てが浮遊に包まれ、コポコポと不自由に澄んでいく。重みで沈んだ体は、水流を受けながら、私の意志とは無関係に浮かび上がる。水面から顔を出した。音がよみがえり、刹那、現在地があやふやになる。しかし奥でドオドオと流れ続ける滝と、手前でチャポチャポと遊ぶ水が、帰還を教える。次いでぼやぼやとしていた視界が戻る。目いっぱいの白い光が、風景になっていく。岩は陽光を浴びて濡れた表面がうれしそうに輝いている。青々と広がる苔のじゅうたんに、滝の息吹を受けてたなびく草木、たゆたう水。「豊かさとは」「自然とは」「思想とは」「なぜ」「だれ」「なに」「熊野とは」—。全ての問いが、思考が、もはや遅く、意味をなさない。その意味すら水泡に帰していく。ただ、ただ在ると知る。無であり有である。境がなく、全てがある。生きていて、死んでいく。それすら営みだとわかる。わずか5秒間の出来事。夏、滝に行く。熊野。

【稜】

      7月 8日の記事

      最新記事

      太平洋新聞 電子版 お申込み
      ご購読申し込み月は無料

      イベントカレンダー

      ※イベント中止および延期となる場合がございますので、詳細は主催者へ直接ご確認頂きますようお願い申し上げます。

      ニュースカレンダー

      速報記事をLINEでお知らせ 友だち追加

      お知らせ