先日、雲の中を歩いていた。地元北海道で、日本百名山にもなっている「雌阿寒(めあかん)岳」に登ったのだ。活火山で、森林限界を超えた頂上付近は岩場が続き、噴火口も見える。同行した姉は登った経験があり、行く前に「月面を歩いているみたいだよ」と教えてくれた。楽しみにしながら一歩一歩を踏みしめ、1499メートルを踏破したわけだが、うん、なんだろう。霧と風で何も見えない。
「しかし雲はきれいだ」と自分をいさめる。いつも見上げているお空の雲が、身近に感じられる。というかずっと体に吹き付けてくる。髪はびしょびしょ。頂上に着いたらお湯を沸かして飲もうと持参した姉のコーヒーセットも、重いからと途中から私が担いでいたが、うん、なんだろう。風が強すぎてとてもそんな状況ではない。
という調子で眺望についてはさんざんだったわけだが、やせ我慢を差し引いても雲が流れ続ける光景はきれいだった。見え方が変わる。夏の入道雲が好きで最近はよく見上げているが、あの裏側にはどんな世界があるのだろうか。きっとコーヒーは入れられないだろうな。
【稜】