国語の授業で習った「蝎座(さそりざ)カレンダー」という作品が好きだった。死に至る毒を持つ赤いサソリに刺された主人公は、解毒するために青いサソリを探す。最終的に見つけるが、解毒のためには青いサソリを殺さないといけず、主人公は自分の死を受け入れる。ここに「人災」にまつわる重要な示唆が含まれているように思う。
新型コロナウイルスの感染者が激減し数か月が経ったが、個々人の中にはいまだ「いつまた感染拡大が起きるかわからない」という不安があるように思う。「不安」や「恐怖」は生き物として必要だが、それに飲み込まれてしまうと「攻撃」につながりかねない。
感染拡大が続いていた時期は、さまざまな偏見や憶測が飛び交った。インターネット上でも根拠のない言説がよく見られ、うわさ話が一人歩きし、「コロナいじめ」という言葉も出てきた。
物語の最後で、主人公は語る。「人はみんな生まれた瞬間にサソリに刺された。いつ毒がまわってくるか誰も知らない。毒を回避するために誰かを恨んだり殺したりはできない」。まだ心に余裕のある今の時期に、「なにを恐れるべきか」、考えておきたい。
【稜】