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戦争の記憶 私たちが紡ぐ 沖縄戦題材の劇 10年前に上演 阿田和中

 6月23日は「慰霊の日」。太平洋戦争末期、一般住民を巻き込んだ地上戦が展開された沖縄戦で、日本軍が組織的な抵抗を終え、事実上終結した日とされる。終戦以来、約20万人が戦死した記憶を絶やさないよう、戦没者追悼式が激戦地の糸満市摩文仁にある平和祈念公園で挙行される。約2000キロ離れた御浜町でも10年前の2016年、中学生たちが自作の劇を通じ、過去の記憶を伝えた出来事があった。
 
 
■他人事ではない
 
 東紀州3市町では2005年ごろから、紀宝町立矢渕中学校を皮切りに修学旅行先に沖縄を選ぶ流れが広まった。16年当時、御浜町立阿田和中学校に在籍し、前任校が矢渕中だった大﨑重久教諭(58)によると、「せっかく沖縄に行くのであれば、海で遊んで終わるのではなく、沖縄戦を学んで帰ろう」と教員間で一致した。両校は作家、郷土史家で沖縄戦に詳しい熊野市の中田重顕さんを講師に招き、事前学習で中田さんの説明を聞くことが慣例に。中田さんは16年、阿田和中を訪れた。

 「御浜町から出征し、沖縄で亡くなった人が23人いる。彼らは石部隊と呼ばれ、看護を担当したのが昭和高等女学校(当時)の82人。彼女たちも沖縄で眠っている」。当時の3年生はひめゆり平和祈念資料館を訪ね、昭和高女の生き残りの人から話を聞く機会を得られた。当時の凄惨(せいさん)な状況を見聞きし、沖縄戦は他人事ではなかったと知った。

 「私、脚本作りました」。修学旅行が終わり、2学期が目前に迫った8月末。文化祭の準備を進める大﨑教諭のもとに、一人の女子生徒が"長編小説"を持ってきた。
 
 
■生徒がシナリオ作成
 
 「軍医殿、殺してくれ」「私は皇国の女だ。私も殺せ!」—。目を疑うほど残酷な台詞が続出する。執筆したのは北裏柚々さん。カットせずそのまま上演すると、1時間以上の長さになる大作だった。学徒隊の生き残りの老女が、現代の子どもたちに当時の記憶を語り出すところから始まる。大部分を占める回想シーン中は凄惨な場面が続く。仲間が次々に銃弾の餌食になり、重傷を負った日本兵は青酸カリ入りの牛乳を飲まされ、味方であるはずの日本兵も「われわれは解散。あとは各自で行動せよ」と突き放す—。25歳になった北裏さんは「すべて、現地で見て聞いたこと。遠慮するつもりはなかった。沖縄戦の悲しい記憶を知ってほしい。その一心だった」と述懐する。担任の大﨑教諭は意志をくみ取り、劇の題材にすることを認めた。北裏さんは、同級生の助言を受けつつ原稿を規定の30分以内に収まるよう書き直した上で、「もう一度、詳しく話を聞きたい」と独断で中田さんを招へい。改めて沖縄戦に関する話を聞き、事実誤認がないか確かめた。「せめて担任に相談してくれよ、と注意した」。立場上、大﨑教諭はたしなめざるを得なかったが、思い出を語るその目は笑っていた。

 
■稽古以上の出来栄えに
 
 劇では3年生28人のうち半数が出演し、一人二役の子もいた。文化祭で演劇を披露するのが恒例だった同校でも、上演前にロードムービーを上映するなど、画期的な手法を編み出した。体育祭やテストなどの行事が重なったこともあり、稽古に費やせたのは1か月足らず。それでもミスは出なかったばかりか、練習以上に力が込もった。
 
 監督兼脚本兼準主役だった北裏さんは「私がビシバシ厳しくやり過ぎても、みんながついてきてくれた。歴史を伝えたい思いは同じだった。私たちと同じ年代の子が亡くなったのだから」とうなずく。「平和な世の中が少しでも長く続くように」。全員の総意が込められたナレーションが入り、ラストを告げると、満席の観客席から、すすり泣く声が合唱のように聞こえた。だが当時のことを語る同級生は少ないという。舞台で全てを表現し切ったのだ。
 
 
■形は変わっても
 
 10年経ち、北裏さんは看護師として四日市市民病院の救急科で奮闘している。脚本家や小説家は目指さないのかとの問いに「小さい頃から看護師になるのが夢だった」と笑う。その上で「有事があると、私たちは現場に行くことになる。そうなれば任務なので行かなければいけないけど、そもそも戦争はあってはならない。繰り返してはいけない」。全国的に学校行事の縮小傾向が進み、阿田和中でも劇はパネル展示や学習発表に取って代わった。「形が変わっても、沖縄戦が記憶の片隅にあってほしい」。大﨑教諭と北裏さんの言葉は一致した。

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