新宮市の世界遺産・神倉神社で6日夜、例大祭「お燈祭り」が斎行(さいこう)された。上野顯宮司がご神体・ゴトビキ岩下の社殿で暗闇の中に神火をともし、1450人の上り子(のぼりこ/あがりこ)が願いを込めた松明(たいまつ)にうつし、「わっしょい、わっしょい」と威勢よく麓へ下った。神職・介釈一行は奉幣神事までを厳粛に執り行い、熊野の地に春を呼ぶお燈祭りを無事に終えた。
お燈祭りは、白装束に荒縄を締めた男衆「上り子」が松明に神火を移し、ゴトビキ岩がある神倉山の山頂から538段の急峻な石段を下りる勇壮な火祭り。熊野権現が最初に地上に降臨したと伝わる同神社で、熊野神の来臨を再現しているという。古代以来の熊野山伏の伝統を持つ。2016年3月、国の重要無形民俗文化財に指定。
午後5時ごろ、祭りをつかさどる介釈を担う神倉青年団が、大松明を持ち神倉憩いの家を出立。神倉神社でお祓いを受けた後、熊野速玉大社へ向かった。さらにお祓いを受けた後、再び神倉神社へ。神職らは麓で山伏の装いになり上った。
上り子らは三社参りで阿須賀神社、熊野速玉大社、妙心寺を巡った。上り子同士がすれ違う時には互いの松明を当てながら「頼むで」などと声を掛け合った。その後、それぞれ山頂境内へ上った。
午後7時15分ごろ、山頂社殿内で、上野宮司が火打ち石で切り出した神火の明かりがともった。それを上り子から集めた「ハナ」(松明の先の薄いヒノキ)に移し、そこから大松明に点火。大松明が持ち上がると、周囲からは「おおお」と雄たけびが上がった。
大松明に移った神火は介釈によって一度、中腹にある「中の地蔵」まで運ばれ、20人ほどの上り子が松明に移して山頂境内へ。火は大勢の上り子に次々に広がっていった。
午後8時ごろ、山頂境内の山門が一度閉じられてから、開門。ぎゅうぎゅうに詰まった上り子たちが一気に飛び出し、列をなして下った。麓では家族や友人らが役目を終えた上り子を「ありがとう」「お疲れさま」などと迎え、帰路についた。
神職・介釈一行はその後、陰灯(かげとう)に移した神火を持って阿須賀神社、熊野速玉大社と巡り、それぞれで「奉幣神事」を斎行。上野宮司が静かに祈りをささげた。
上り子として参加した伊藤好誠さん(22)は、現在大学4年生。2歳の頃から父親に連れられ上っていたが、地元外の高校進学のため中学2年生を最後に上っておらず、今回、帰省して8年ぶりに神火を受けた。「地元の祭りは久しぶりで、やっぱりいい。就職がうまくいくように大願成就と、身体堅固、恋愛成就を祈願した。これからも祭りの時は帰ってきて参加したい」と話した。
父親と参加した岸﨑秀崇さん(小学6年生)は「(火が燃え広がるのは)最初怖かったけど、慣れたら面白かった。また上りたい」と話した。