「読書の秋」と昔から言われるように、過ごしやすい気候や夜の長さから、秋は読書に最適。毎年10月27日~11月9日は読書週間として、読書を推進するさまざまな行事が展開される。本紙エリアでは、新宮市、那智勝浦町、串本町、紀宝町、熊野市には図書館、太地町、古座川町、北山村、御浜町には図書室がそれぞれ完備。田辺市本宮町は、本宮行政局内に市立図書館の分室がある。老若男女問わず利用者でにぎわうのが理想だが、どの程度の住民が普段から本に親しんでいるだろうか。
丹鶴ホールの最上階にある新宮市立図書館は、熊野川や新宮城跡を展望できるロケーションも魅力だが、令和3年10月の移転開館後、まだ訪れたことがないという市民は意外に多い。受験勉強などで利用する高校生や本を借りる目的に訪れる市民の姿は目立つが、ホールでの催しに参加した人がついでに立ち寄るという複合施設としてのメリットが果たしてどの程度あるのだろう。"4階に上がる"という導線の分かりにくさがネックになってはいないだろうか。一方、熊野市立図書館は同市文化交流センター内にあるが、同じ1階のため、ホールでの催し前後で図書館に出入りする人の姿をよく見かける。目的はなくても時間つぶしに立ち寄ったことで、お気に入りの本との出会いが生まれることもあるだろう。
どの図書館でも乳児や幼児を対象とした読み聞かせは毎月のように行われているが、新たな利用者を開拓するための催しも企画してはどうか。熊野市立図書館では、いずれも子どもを対象に、司書の仕事を体験できる養成講座や、閉館後の図書館を見学するナイトライブラリーを催し好評だった。これらの催しを大人にも広げたり、短時間で立ち寄った人が本に興味を持てる展示だったり、さらにそれを積極的に周知する方法を考えたりと、工夫できることがあるのではないか。
新宮市は来年度から、丹鶴ホールの施設管理を代行する指定管理制度とするため、現在事業者を募集している。指定管理とするのは、文化ホールと施設全体の維持管理で、図書館と熊野学センターはそれぞれ司書と学芸員がいるため直営を継続する。市は毎月管理者の報告を受けながら、これまで以上に利用しやすい施設を目指すとしているが、事業者にも複合施設のメリットを生かす意識を常に持って、イベントの開催だけでなく、図書館や熊野学センターにホールの来場者を誘導するような仕掛けを期待したい。