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紀南抄「めがね」

 「見ること」と「見ようとすること」の間には、大きな隔たりがある。

 普段、眼鏡をかけている。しかし自然の中にいる時やお祭り、音楽ライブなど、本当に何かを見たい時、感じたい時には、あえて外したりする。たとえ視力が落ちたとしても、そうした方がよく見えるように思うのである。

 眼鏡をかけると、視界のほとんどはピントが合うのだが、隅っこの方にピントが合っていない部分がどうしても出てくる。すると、私が見ている世界はピントの合っている世界と合っていない世界とで隔たっており、ピントの合っている世界を見る時には、無意識下で「見ようとする」働きが生じる。そうすると、全体をぼんやりと見るということが難しくなるのである。

 「木を見て森を見ず」という言葉があるが、まさに、眼鏡をかけていると目の前のものを見ようとしすぎるがあまり、その背景にある大きなものを見逃すのだ。それは"眼鏡族"の中でも私だけの問題なのかもしれない。しかし、懸命に見ようとするあまりに本質を見失うという事態は、普遍的な人間の課題であろう。あと、眼鏡はくもる。

【稜】

      4月15日の記事

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