天啓を受けた。冷蔵庫にはニンジンとダイコン。今日は寒い。もう、鍋にしよう。いや、今日のメニューが鍋であることは、もはや私の意思の範疇を超えて決まっていた運命やら天命やらと言った絶対的で謎めいた宇宙の働きにより決まっていたものなのだろう。さすれば、かごに入れていたシチューの材料をわざわざ元の棚に戻してまでハクサイを手に取った私の非合理な行いにも説明がつく。昔の王族は、その権力の源泉を神による信託を受けたものとして「王権神授説」などという大層な説明を付けていたが、今ここに至って、その真意が私にもわかった。王権が神によって授けられるものならば、この私の手元に来た4分の1で78円のハクサイもまた、神の御業により授けられし資源なのである。ハクサイがかごに入ってしまえば自然、豚肉もキノコもこの機を待っていたかのように私のもとへやってくる。いかん、くずきりと豆腐を忘れていた。いや、しかし思い出せた。ここで出会えなければ私の鍋の命運もここまでだったのだろうが、そうはいかぬ。
家に帰り私は、天寿を全うした(鍋を食べた)。
【稜】