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紀南抄「オリジナル」

 誰も見たことがないような表現をしたいような気がする。しかし同時に、そんなものは誰にも受け止められないとも思う。人が何かの表現を受け止められるのは、獲得した経験や感性の中で少なからず共通するものを見つけられるからだ。人は社会に影響を受け、また与えながら表現を行っている。完全な”オリジナル”があるとしたら、それはそのような文脈を無視した、アナーキズムにも通ずるある種のやけくそである。

 例えば、誰も書いたことがない文章を書いたとする。しかし用いた言語はオリジナルではない。ではオリジナルの言語を用いたとする。しかし言語という観念は元からあるものだ。では言語を飛び越えたオリジナルの表現方法を作ったとする。その場合は、表現行為という観念を逸脱できていない。

 このようにこだわるのは、私には「他と同じではいやだ」という幼稚な欲求があるためだ。しかしその欲求はどこにでもあり、「他」という相対的な価値観からは脱却できないものだという矛盾も抱えている。端的な真実は、皆それぞれ同じ人であり、それぞれ違う人であるということだ。

【稜】

      10月30日の記事

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