こぽこぽこぽこぽ…。水の中に入ると、独特な音に包まれる。目は開けていてもぼやけるので聴覚が優位に働き、あとは全身を包み込むやわらかい水の感覚と、宙に浮いたように感じる浮力、どこか懐かしいような心持ちに身を委ねる。やがて自分と世界との境界もあやふやになり、溶け出していく。
以前取材で、世界はエネルギーのプールに満ち溢れているというのを聞いた。水の中ではそれがわかりやすい。水中から水面に向けて手のひらを押し上げれば、水が押し出され水面に表れる。当たり前のことだが、自分の手から生じたエネルギーが水を伝って形になるのである。
しかし自分が発したように思うこのエネルギー、元をたどれば食べ物から摂取したものだ。食べ物は地球が育んでいる。地球は宇宙のバランスの中で一粒の星として構成されている。エネルギーは私が発したように見えて大きな全体の中で流動しただけであり、私もそれを媒介する一粒でしかない。
夏が終わる。意味さえ意味を失って、こぽこぽと流れる水の中で、ただ在ることに感謝する。この季節、それが私の熊野体験であった。
【稜】