今朝、出勤すべく自宅マンションの階段を下りていたところ、1本のクモの糸が体にまとわりついてきた。どうやら階段を横切るように引いていたらしい。
「これでは避けられないよ」と、心の中でつぶやいた。普段からあの踊り場の内側、頭のあたりのクモの巣の存在は知っており、そこに突っ込む可能性も考慮はしていた。そのためクモにも気を使って少し外側を歩いていたわけだが、そんな謙虚な人間に向かって、階段を横切るように糸を張るとはなんたることか。朝から両手をぐるぐるして糸を振りほどく成人男性の身にもなってほしいものである。
さて私は、クモの道を知らぬ間に壊したことになる。誰かの行く道を無意識だとしてもさえぎってしまうというのは、避けたい状況だ。考えてみればこれまでの人生、私の行いが知らぬ間に誰かの道を途絶えさせていた可能性がないとどうしていえよう。悪意も知るよしもなければそれで万事許されるのか。キリスト教の原罪とは、つまりこういうことを言っているのであろうか。
面白いのは、クモもまた私の道を遮っていたことだ。寝ぼけ眼をこする。
【稜】