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紀南抄「『分かった気になる』こと」

 記者という仕事をしている以上、「分かった気になる」ということとは常に向き合わなければならないと感じている。
 
 例えば自分が取材先で相手から何かを聞きとる時、相手の言いたいことを完全に理解することはできないということは、念頭に置いておく必要がある。相手が「うれしい」と言った時、その言葉の表面だけ受け取って分かった気になっていては、それ以上寄り添うことができない。その一言の奥に、これまでのさまざまな経験や言葉では言いようのない思いが隠れているはず。それを感じようとするかしないかが、記事に見えづらくも大きな影響を与える。
 
 また、一方で、読み手の「分かった気になる」とも向き合う必要がある。記事の「うれしい」という言葉を読んで単純に「そうか、この人はうれしかったのか」で終わられるのは、あまりいい文章ではない。その「うれしい」にたどり着くまでに何があったのか、その言葉の奥を自然に想像してもらえるようなら、それが理解へとつながる。
 
 伝えるということは奥深い。目指す先は「分かる文」「分かりやすい文」ではなく、「分かりたいと思われる文」なのかもしれない。
 
【稜】

      3月27日の記事

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