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紀南抄「流れる思考」

 この文章には目的もテーマもない。いや、テーマといえば、テーマがないことがテーマだろうか。ただ行きどころのない文章を自然な思考、あるいは惰性的な有意識の残りかすに身を任せながらつらつらと書いた先に生まれるものが見たいだけなのである。

 しかし一つ疑問が生じる。もしこのまま何か一つの表現が出来上がったとして、それは一体誰が作ったものなのだろうか。私はこの文章を「書こう」と思ったわけでも、「こうしよう」と思ったわけでもない。それが一体全体、「私の」文章といえるのであろうか。

 そしてここで新たな疑問。私はなぜこの文章の出どころを求めているのか。おそらくどこかで自己同一性とかいう悪魔に救いを求めようとしているのだろう。「私」という存在をあろうことか世俗的な社会の中で証明したがっているのである。

 流れ行く思考をなんとかとどめておこうとして、こんなたわいもない何かが出来上がった。しかし恐ろしいのは、この表現もまた、流れ行く思考を純粋に文章にしただけなのか、「書く」という必要性によって生み出された思考なのか、その出身が定かではないというところか。

【稜】

      8月18日の記事

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