直木賞作家の伊集院静氏はかつて失意の中、海辺で当てもなく暮らしていた。知人からの借金の利息代わりにと海の様子を日誌に書いていた、と随筆で読んだ。
絶景として評判のオハイブルーを船から見るクルージングが始まることになり、業者の厚意で体験させていただいた。写真や映像では何度も見たが、目の当りするのは初めて。光りの加減で濃い青にも淡い緑にも色合いを変え、光り輝きながらも吸い込まれていきそうな闇も抱えている。あのすばらしい景色を表現しきれない非才を恥じるばかり。
オハイに限らず、尾鷲の海はとても美しい。港の堤防からは魚どころか水底がはっきりと見える。海水浴場で水の冷たさを感じながら素足で歩いていると、砂がまとわりついては洗い流されていく様子がはっきりと見えるほど水が澄んでいる。この地域に生まれ育った人には当たり前かもしれないが、尾鷲に来てから潮の香りを知り、海がきれいなものだと分かった人間もいる。
夏の尾鷲は清澄な水のまちだが、このすばらしい観光資源が十分に生かされているとは言い難い。アフターコロナに向けて、マリンレジャーを強化していかなければならない。
(R)