昨年の3月18日、特急くろしおに乗って熊野地方へ移住してきてから、丸一年が経過する。初めての土地で、初めての新聞記者という仕事。初めて出会う人々、行きつけになったお弁当屋さん、木々や自然の美しさ・・・。早かったが濃密だった一年は、熊野を好きになるには十分すぎるほどの時間だった。
この地方の人々について魅力的に思うことの一つは、信仰にある。目には見えないが人を圧倒的に凌駕する、人知を超えた何かへの畏敬の念が、この地域には根付いている。「自然信仰とはこういうことか」と肌で感じられたことは、大きな財産になると思う。そして、熊野という土地がまだその信仰を保ったままに脈打っていることは、明治維新以降いろんなものを見失いながら進んできた日本にとっても、ものすごく深いところで意味のあることなのだろうと感じる。
ここに来るまで、鳥居の前で一礼をすることなどしなかった。生まれ育った北海道の神社は生活に根付いたものではなく、特別な時に行く場所だった。知人の影響から今は一礼するのが習慣となっている。
移ろう季節とともに、熊野での生活を繰り返していきたい。
【稜】