「書くことは速度でしかなかった 追い抜かれたものだけが紙の上に存在した」ー。詩人の寺山修司が残したこの言葉は、記者として私も肝に銘じなければいけない。
何かを言葉にして記述するということは、実際には動いているものを変化しない、動かない存在に変換するという作業である。例えば「〇〇さんは◇◇と語った」という記事も、世に出るときにはその人の考えは変わっているかもしれない。しかし言葉にした瞬間生きた人間も過去になり、以降の変化はその記述の上では追いかけられない。
当たり前のことだが、これを見失ってはいけない。なぜなら仕事は人との関わりで成立するものであり、大切なのは「関わる」ことではなく「関わり続ける」ことだからである。
そんなことを考えたのも、昨年9月に「10年の節目」として紀伊半島大水害の被災者の方を取材させてもらってから約半年が経ったためだ。いつ見ても新鮮な花が供えられている紀伊半島大水害記念公園の石碑を思い出し、そんなことを考えた。取材はその時期に集中するが、当事者にとっては毎日の継続の中に出来事がある。人と関わり続ける姿勢を保ちたい。
【稜】