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紀南抄「わかりにくいものの価値」

 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」という詩がある。私は正直、この詩の良さがよくわからない。わからないのに、何故か放ってはおけない。わからないものへの興味は、人間として大切にしたいものの一つだ。

 昨今は、わかりやすいものばかりが溢れている。ユーチューブが典型的だ。動画配信者の主な収入源は広告収入であるため、ユーチューブの中では「より多くの人に見られている」ということが重要な価値基準となる。

 そうすると自然に「わかりやすくて目をひくもの」が主流となり、「わかりにくくて興味深いもの」はなおざりにされてしまう。広告収入を基調とするインターネットメディア全般にいえることだ。それらが現在のメディアの主流となっている。

 「雨ニモマケズ」のように、じっくり考えてようやく何か一つ見いだせるようなものの価値を見直したい。大学時代の文学の教授が「一度読んですぐわかるようなものには、実は何も書いていないのでは」と言っていたのを思い出す。わかりにくいものに触れることで個人は物事を「深く」考えるようになり、社会はより複雑なものを表現・保存していくことができる。

【稜】

      10月26日の記事

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