新宮市下本町、旧丹鶴小学校跡地で建設が進む文化複合施設。ホールと図書館、熊野学機能を1つの建物の中に整備するもので、来年秋ごろの開館を予定している。公募していた施設の愛称は、1010件の応募の中から、田岡実千年市長が委員長を務める選定委員会の選考で「丹鶴ホール」に決まった。今後、建設工事と並行して、施設の利用計画などソフト面も進めていく。
全体事業費約63億円を投入した文化複合施設の整備は、建設費や設計、出土した遺構の取り扱いなどをめぐって市内を二分するような大論争に発展し、予算等を審議する市議会は深夜にまで及んだ末、昨年から工事に取り掛かっている。
そのような背景があるだけに、市民への情報発信には透明化が不可欠だ。今回の愛称決定方法について分かりにくかったという声も出ている。また、開館時期についても建設が始まって当初は来年夏ごろと説明していたが、コロナ禍により工事に遅れが生じたことで、予定は来年秋ごろに変更となるも、その経緯や理由についての丁寧な説明がない。工事の進捗状況を定期的に市民に知らせることで、市民の施設に対する理解は深まり、期待感も高まる。毎年1億円以上になる開館後のランニングコスト(経常経費)についても説明が必要。そのように情報発信を続ける中で、稼働率を上げるための知恵が生まれることもある。
国の有利な交付金を充てているものの、新宮市の財政規模から考えると決して安い事業ではない。多額の税金を投入し行う事業だからこそ、完成後は一部の市民だけでなく、多くの市民が有効に使えるためにはどうするべきかを真剣に考えてもらいたい。例えば、高田や熊野川町など市街地から離れた地区の市民も利用しやすいような環境整備。市主催事業では送迎バスを運行するなどのサービスがあってもよい。
市議会9月定例会では、医療センターの初診料値上げに関する条例改正について、10月開始にもかかわらず間際の提案となった当局に議会から批判の声が相次いだ。文化複合施設の時も議論の時間が少なく、拙速に進めようとする姿勢が問題となったが、田岡市政に反省の様子は見られない。
市民目線、市民ファーストを常に意識していれば、そのようなことにはならないはず。文化複合施設は50年に一度と言われる一大事業。当局はそのことを肝に銘じ、積極的な情報発信と丁寧な説明に努めてもらいたい。