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不連続線「そこにある美鷲」

 「デビュー作にはその作家の全てがある」という俗説がある。この言葉の真贋はさておき、尾鷲市出身の小説家、伊吹有喜さんを語る上で、デビュー作の『風を待つひと』は重要ではないかと思う。
 
 生きる力を失いかけた男女が、ふるさとの港町で人生を再生していく夏の物語だ。作者本人が4年前の尾鷲でのトークショーの時に語っていたが、舞台となった美鷲(みわし)はどう読んでも尾鷲だ。矢の花峠、美鷲水産、ドライブイン、市立図書館の分室の小さな図書室、自転車で駆け抜ける急峻な坂道、海を見下ろす和洋折衷の家、山桜の咲く道…「ああ、あそこだ」と分かる光景ばかりで、読んでいて楽しい。
 
 主人公2人はともに39歳だが、伊吹さんがデビューしたのも39歳の時。この作品の次に書いた『四十九日のレシピ』は何度も映像化される大人気作となった。その後も直木賞候補に3回選ばれるなど、人気作家としての地位を着実に築いている印象がある。
 
 今回直木賞を逃したことはファンの一人として少し残念な気もするが、伊吹さんの作品の魅力は何ら陰ることはない。今後もすばらしい物語を読ませていただきたいと願うばかりだ。
 
(R)

      7月22日の記事

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