大正、昭和期に活躍した新宮市名誉市民の作家、詩人・佐藤春夫の肖像画や、同時期に活躍した名だたる文豪が春夫に宛てた書簡などの貴重な資料が24日、同市新宮の佐藤春夫記念館に寄贈された。肖像画は親友の高村光太郎が描いたもので、太宰治、井伏鱒二など親交が深かった作家から送られた書簡のほか、執筆資料、原稿など実践女子大学(東京都)がデジタル化した1万3000点以上の膨大な資料とともに、一部が10月ごろリニューアルオープン予定の同館で展示される見通し。
資料は春夫の長男・方哉さん(故人)が保管していたもので、方哉さんが2010(平成22)年に死去して以降、遠戚にあたる高橋百百子(ももこ)さんらが同大学の支援を受けて整理を進めた。芥川賞の受賞を熱望していた太宰が、当時選考委員だった春夫に「第二回の芥川賞は、私に下さいまするやう(よう)。伏して懇願申し上げます」と訴える書簡や、挿絵入りの芥川龍之介の手紙など当時の文豪たちと春夫の関係が伝わるものが確認されている。
1989(平成元)年の記念館開館に際し、方哉さんから一部の資料が寄贈されたが、未整理のものが佐藤家に大量に残されていたという。東京都文京区の旧宅は、幸い空襲をまぬがれていた。
肖像画は、春夫と家族ぐるみの付き合いがあった光太郎が1914(大正3)年に描いた油彩画。和歌山市吹上の県立近代美術館に保管されており、合わせて寄贈が決まった。
東京都渋谷区のキャンパス内で同日、寄贈式が行われ、高橋さんから辻本雄一館長、上田勝之市長ら市関係者に肖像画と目録が手渡された。高橋さんは「春夫の地元で展示してくれてありがたい。大切に保存されることを願う」と話した。辻本館長は「文化的な展示に力を入れていきたい」と応じ、上田市長は「名誉市民第一号の関係資料を寄贈いただいたことは、地域の文化意識を高める大切な機会となる。資料群は地域の文化遺産を守り、育てるうえで極めて貴重であり、次代へとつなぐ架け橋になる」と期待感を示した。
また、記録、保存のためデジタル撮影が施されており、大学図書館内でも専門コーナーが設置される計画がある。国文学に詳しい河野龍也・東大准教授(実践女子大客員研究員)は「貴重な資料をこれだけの規模で散逸せず保管した遺族の努力に敬意を表したい。春夫が生涯にわたって受け取った手紙は、近代の文壇史が凝縮されている。春夫の全体像がさらに明らかになることを期待したい」とコメントした。
春夫は1892(明治25)年、旧新宮町生まれ。上京後の1918(大正7年)、自らの病的な心情を描写した「田園の憂鬱」でデビューし、数々の小説や詩、評論を残した。市出身で、短編小説「岬」で芥川賞を受賞した作家・中上健次にも影響を与えた。
※写真は新宮市提供
