尾鷲市向井、三重県立熊野古道センターは1月25日、新熊野学講座を実施。県総合博物館学芸員の瀧川和也さんが、熊野信仰の布教に活用した宗教絵画「熊野観心十界曼荼羅(くまのかんじんじっかいまんだら)」を解説し、過去から現在にわたる死生観、地獄や極楽の考え方をひもといた。
熊野観心十界曼荼羅は、室町時代から江戸時代にかけて熊野信仰普及拡大に努めた熊野比丘尼(くまのびくに)と呼ばれる女性宗教者が各地に携行した絵図で、各地で熊野への参詣や堂舎造営の募金を勧めるのに使った。およそ縦1.5メートル、横1.3メートルで、B4判ほどの和紙をつないだもので、国内外に60点ほどの曼荼羅が確認されている。
画面の上半分には右から左へ虹のような弧を描きながら幼児から少年、青年、老人と人の一生を表現している。下半分には、六道(天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄)に仏・菩薩・縁覚・声聞を加えた「十界」が描かれていて、特に多くを占める地獄は生々しく描写されている。
地獄では、生前の善悪を写す浄玻璃(じょうはり)鏡、罪の重さを量る業秤(ごうびょう)、罪人を地獄に送って呵責する火車、針の山など過酷な描写も多いが、地蔵や観音に救われる人も描かれており、信仰による救いを示していることがうかがえる。
瀧川さんは、曼荼羅を現代のイメージに置き換えながらくわしく説明し、県内での発見場所などについても解説。「私たちが想像する地獄や極楽のイメージを考える上で、この絵は非常に重要や役割をしているのではないか。おそらくこの絵が現れてきた時期に、現在の地獄や極楽のイメージが形成された」「親から子へ代々受け継がれていく『イエ』の概念が一般に定着し、跡継ぎが必要で、死者や祖先の供養として仏壇やお墓につながったのではないか」と述べた。