奉納奉告祭斎行、神宝館で公開
新宮市の熊野速玉大社は令和10年の御創建1900年に向け、国宝御神像7体のうち4体の複製(レプリカ)に崇敬者と篤志家の協力を得て取り組んでいるが、このうち熊野速玉大神坐像が完成し、22日に奉納奉告祭を斎行した。併せて、和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会が国の補助を受け、文化財の未来を担う世代が中心となって取り組んだ彩色テスト用の像(高さ約2分の1サイズ)も2体が完成し披露した。
今回複製に取り組む4体の御神像は、熊野速玉大神坐像、熊野夫須美大神坐像、家津御子大神坐像、国常立命坐像。高さ約1メートルの木彫り像で、平安時代前期に作られた。来年は同大社の古神宝が一括して「国宝古神宝類」に登録されて70年目、熊野速玉大神、家津御子大神、国常立命の御神像が2005年に国宝に再指定されてから20年目になる。複製作りは、新しい技術と多くの人々が携わることで、文化財の保護意識をより広める目的もある。
複製は、県立和歌山工業高校産業デザイン科の生徒が3Dスキャナや3Dプリンタを使って今年1月から計測・修正を行い、専門業者に委託して樹脂による造形が完成。同校生徒が8月に同大社を訪れ、熊野速玉大神坐像と熊野夫須美大神坐像のレプリカを磨く作業を行った。また、10月には神道芸術家の平野薫禮さんが講師・彩色監修、和歌山大学ミュージアム・ボランティアの4人がサポートスタッフを務め、新宮市内を中心とした小中学生による「ワークショップ」を実施。子どもたちは、やすりがけで表面を滑らかにする磨き、絵の具を定着させるための下地塗り、アクリル絵の具などを使った彩色の3つの工程に携わった。
奉告祭には関係者約40人が参列。神事終了後、同大社神宝館に安置した。上野顯宮司は、複製に携わった多くの人への感謝と子どもたちが携わったことへの意義を話し、「(御神像が)1000年間ほとんど現存のまま守られてきたのは奇跡。これからも皆さんの力で文化財を守っていくことが大切」と伝えた。県立博物館の関根俊一館長と学芸員の島田和さんも「地域の宝を皆さんで守って」と呼び掛けた。
和歌山工業の中條采楽さんと藤田心乃さん(ともに3年)は、実物の写真を見ながらの修正作業が難しかったと振り返りながら、「完成品を見て地域に貢献できたことをあらためてうれしく思った」。奉納直前まで仕上げを担当した平野さんも写真を見ながらの作業が難しかったとし、「1000年の祈りが込められた御神像なので大切に描かせてもらった。本当に感謝でいっぱい」と目を潤ませた。
ワークショップで下地塗りを経験した世古芽衣さん(神倉小2)は、奉納奉告祭に参列できたことを喜び、「自分が携わった御神像(レプリカ)の完成も楽しみ」と話し、別の参加者は「気が遠くなるような作業で本当に大変だった。文化財はこんなに難しい作業をして修復しているということが分かり、自分も目指してみたいと思った」と思いを語った。
今回奉納の御神像はそれぞれ神宝館で公開している。入場料は大人500円。高校生以下無料。