紀宝町と中央大学(東京都)は、VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)やAR(オーギュメンティッドリアリティ=拡張現実)などのデジタル技術を使った防災訓練や避難支援の実用化に向け、共同で研究を進めている。14・15日は町民がVR装置を使ってバーチャル空間を体験し、実際に避難訓練に活用できるか実証実験した。
研究は、同大学理工学部都市環境学科海岸・港湾研究室の有川太郎教授が行っているもので、4~5年前から紀宝町と共同開発に取り組んでいる。このたび、試作モデルが完成したため、データ収集などを目的に住民の協力を得て試験訓練を行った。
VRは、専用のゴーグルで360度の映像を映すことで、実際にその空間にいるような感覚を得られる技術。現実的には危険な災害や火災などを擬似的に体験できるため、防災分野での活用も期待されており、訓練に導入する自治体も増えてきているという。
訓練は鵜殿地区周辺で行い、地区外に住む20代~70代の25人が参加した。大地震が発生し、10メートルの津波が10分で到達すると想定。町役場防災拠点をゴールに設定し、約300メートル離れた地点をスタートとした。
初日に、VR1回、VR3回、VRトレッドミル(屋内型のランニングマシン)1回、現地での避難誘導訓練1回などのグループに分けてそれぞれ実施。VR体験では参加者がゴーグルを付け、実際に頭や体を動かして最適な避難経路を示す矢印に沿って仮想空間を移動していった。翌日に、実際の道路を使ってゴールを目指した。
VRを1回だけ体験したグループは、現実世界の避難では防災拠点以外を選ぶ人も多く、「映像にリアリティがなく現実とリンクせず、経路を覚えていなかった」「スタートの地点でどちらに行くか迷った」「心理的に川や海から離れたかった」「何となく覚えていたが、経験を優先して山方面に向かった」「防災拠点が景色と同化して分かりにくかった」などの意見があった。
VRを3回体験したグループは、前日の経路通りに避難する人もおり、「土地勘はなかったが、映像で見た景色を覚えていた」と感想を話した。有川教授は「回数を重ねると効果がありそうなことが分かった」とコメント。「これまで机上の空論だったのが、実際にさまざまな意見を聞いて課題が見えてきた。これまでよりスピードアップして開発を進められると思う。できるだけ早く実用化を目指したい」と話した。
今後は、映像の精度を高めるとともに、津波の襲来やブロック塀の倒壊なども盛り込み、さらに実践的なシミュレーションができるよう改善していくという。また、ARの避難支援アプリも並行して開発を進め、デジタルを活用した防災力向上につなげたいという。
VRとARを体験した竹鼻勉さん(井田)は「VRは1回だけなので分かりにくい部分もあった。ARのアプリは、スマートフォンを空間に向けると安全な避難経路を示してくれたので、とても分かりやすかった。まったく知らない土地でも活用できると思う」と話していた。