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紀南抄「言論に力はあるか」

 国による人殺しはいくつか種類がある。例えば戦争。虐殺。死刑。素晴らしき民主主義国家の残酷なところは、国民1人1人がその責任者であることだろう。この国に生まれ生きていく以上、自動的に死刑を容認する国家の当事者である。
 
 22日、遠松忌法要が営まれた。大逆事件で証拠もないままに幸徳秋水、大石誠之助らと共に死刑に処された新宮市の淨泉寺の12代住職・高木顕明氏を追悼するもので、約70人が参列した。
 
 大逆事件は国民全員の問題である。法で治める近代の民主主義国家であっても、公権力が思想弾圧を背景に、「疑わしきは罰せず」の司法の大原則をなおざりにして、人を死刑にすることがあると示した。真実はわかりようもないが、これを忘れてはいけないということはわかる。
 
 高木氏は「余が社会主義」の中で「南無阿弥陀仏を唱えて生存競争の念を離れ共同生活の為めに奮励せよ」と記した。私にはこれが、何に傾倒するにせよ、理想を描くこと、それを信じようとすることをやめてはいけないという痛切な願いに聞こえる。まだ言論に力はあるか。南谷の墓前に奮い立つ。
【稜】

      6月24日の記事

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