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紀南抄「知は溶け合う」

 知は溶け合う。

 少し前に自分が教えた知識を、後日、「○○って知ってる?」と得意げに教え返されたことがないだろうか。あの時の不思議な気持ち。「知的所有権」という概念の元となったのは、そんな「僕が教えたのに」といった素朴な感情だったかもしれない。しかしそんな相手を怒り切れないのは、自分のその知識もどこかの誰かから得たものであり、自分もそれを別の誰かに得意げに語ったことがあるためだ。

 知は所有できるものではない。今日発した自分の言葉は、昨日誰かから聞いたことかもしれない。人や書物、ネットなどあらゆるメディアから吸収した情報のかけらが脳みその中でつながっていく。その総合をもって表現は成り立っていく。

 生成AIの発達で、大学の論文すらAIに書かせることができるようになった。言葉を打ち込めば勝手に絵も描いてくれる。もはや、制作者が誰かなどわからない。しかしそれは、今に始まったことではないのかもしれない。人間の頭の中でも、さまざまな情報が集積して表現が出来上がる。溶け合った知の一粒一粒が、先人たちのバトンである。

【稜】

      5月13日の記事

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