新宮市の丹鶴体育館で第75回熊野美術協会展が開催された。出品は44人46点。最終日の21日(日)には表彰式もあった。
集まった作品はどれも味わい深く、風景をきれいに繊細に描写しているものや、自己の内面奥深くへ沈み込んでいくようなもの、絶妙な色彩と線の感覚で鑑賞者を意味や形から解き放っていくようなものなど、素人目にもその作品群のハイレベルさ、作者たちの熟練が伺えた。
1930年から続く歴史ある展覧会。戦後は新宮市名誉市民で丹鶴ホール2階の大きな壁画も手掛けた村井正誠氏が同展に目をかけていたなど、 “僻地(へきち)”と言われる当地方の芸術文化の高揚に長く貢献し、おもしとなってきたようだ。
同協会の三隅俊明事務局長は「最近の人はパソコンで描けるから、筆を使うのはもう古典技法ですね」と寂しげに冗談まじりで話したが、作品が実際に質量を持ちわれわれに迫ることの特異性、面白さは、同展で重ね塗りの油絵や150号の大型作品などを見れば一目瞭然だった。
芸術は“民”に残された最後の砦(とりで)。熊野の文化を、みんなで守りたいと感じた。
【稜】