連日報道される北海道・知床半島沖の観光船遭難事故で、九州の70代の男性が事故当日の午後、妻に対して「船が沈みそうだ。今までありがとう。お世話になったね」という旨の最後の電話をしていたという。
慌てた様子だったとのことだが、「奥さんにお礼を言いたかったんだろう。優しい人だから」「怖かっただろうに、あの人らしい」「いつもにこにこしていて、みんなに慕われている。地域の発展に尽くした人だ」など、親族や関係者の声も報じられている。
長い人生、時には喜び、怒り、悔やむ。仕事にしろ地域での活動にしろ、賛同を得られることもあれば、反発を受けることも。自他ともに満足できる日々を過ごすのは難しいが、人は周囲との関わりやさまざまな経験を積み、振り返ったり、反省したりすることによって、生涯成長し続けるもの。
沈みゆく船内の様子は想像できないし、いざ、自分がその場になった時にどういう精神状態に陥るのか分からない。もしかしたら恐怖のあまり、ぶざまに取り乱すかもしれない。人生に悔いなしは不可能だが、せめて最期に感謝の言葉を伝えられるような生き方をしたいものである。
(J)