取材をしていて「しまった」と思うときがある。相手の属している社会のルールに気づかずに首を突っ込んでしまったときだ。
お正月号で図書館の特集を担当したとき、「各地の図書館職員に珠玉の本を選んでおすすめしてもらおう」と考え依頼したところ、「図書館を背負って一冊を選び紹介するのは荷が重い」と返答をいただいた。やってしまったと思った。軽い気持ちでお願いしてしまったが、職員の方にとって図書館という社会を代表しながら個人の主観で一冊を選び新聞記事にされることは、なかなかの重責だったのである。
新宮市の成人式でも相手の社会規範に気付いた時がある。席に座る振り袖の女性5人に写真撮影を依頼したのだが、カメラをかまえようとしたところで話し合いが始まった。様子を見ているとどうやらそのグループにはもうひとりいるが席を立っていて、探すべきかどうか話していたようだ。一人だけ仲間はずれになってしまわないかという心配があることをわかっていなかった。
人との出会いは、さまざまな社会との出会いでもある。常識の小さな差異に気づく体験の連続を社会勉強と呼ぶのかもしれない。
【稜】