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紀南抄「何もないという表現」

 当地方に移住してきて、地元の方に「何もないところへよく来た」というふうな言葉をいただくことがあるが、これに違和感を抱く。
 
 まず、「何もない」とは何か。何もない空間はそもそも見ることもできないはず。見ることができて「空間」と認識できている時点で、そこには「空間」があり観察者としての「私」がいる。
 
 次に、「都会に比べて何もない」という意味で言っている場合(これがほとんどだろう)について考えると、これが面白い。都会にだけあるものは不足として扱われるが、田舎にだけあるものは語るにも及ばないと思われているのだ。
 
 最近は「ローカル」が注目され、「グローカル」などという言葉まで聞こえ出した。こういった言葉を扱うときは、主語に注意しなければならない。「ローカル」について語るのは常に都会あるいは都会的ななにかだ。本当にローカルな人は自分たちのことをローカルだと思っていない。都会の視点から地方を語ることにどれほどの意味があるのか。
 
 謙遜であり本気で言っているわけではないのかもしれないが、今一度、「何もない」という表現は考え直されてしかるべきと思う。
 
【稜】

      8月19日の記事

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