新型コロナウイルス感染症の流行以来、三密の回避や手指の消毒、ソーシャルディスタンスの確保、リモートワークの推進など、「新しい生活様式」なるものが定着した。マスクもそれらのうちの代表例だろう。メリットの反面、マスクによって失われるものもある。個人的に大きいと思うのは、「におい」だ。
例えば、四季を最初に知らせるのは気温でも景色でもなくにおいだと思う。春のにおいがしたなと思うと木漏れ日の暖かさを感じ、夏草の青々しいにおいがしてきたなと思うと蒸し暑さが後からやってくる。
土地のにおいというものもある。那智勝浦町内でも、紀伊勝浦駅周辺に行けば清々しい海と商店街のにおいがし、那智山の方面に向かえば心地よい土と木のにおいがする。しかし、マスクをしているとそれらが感じられず、どこも均一になってしまう。
においは記憶と強く結びつくという。ともすれば現在の場所・時代の風土と未来の自分とのつながりすら薄れている可能性がある。経済や数字だけでなく、新型コロナによって本質的に何が失われているのかということに、もう少し目を凝らさなければいけない。
【稜】