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紀南抄「太地駅の外壁に思いを馳せる」

 太地町森浦のJR太地駅の外壁を覆っていた工事用シートが取り払われ、その外観が姿を現した。世界最大の港、ロサンゼルス港の一角の離れ小島「ターミナル島」の駅舎をモチーフにデザインされたものだという。
 
 クジラの町として有名な太地町だが、移民の町であったことは、あまり知られていない。海外移住のきっかけは、19世紀の終わりに起きた海難事故。セミクジラを獲りに出た太地町の漁師たちは、悪天候により100人以上が命を落とした。この事故を機に、本格的な捕鯨の終焉を迎えることになる。
 
 町の経済を支えるため海を越えてアメリカなどに渡ったといわれる。紀南地域出身者が多く住んでいたのがターミナル島。島には缶詰長屋と呼ばれる住宅地ができる。そこに住んだのは日本人だけで、島には神社や寺、日本の雑貨店や食堂もあった。つつましやかに平和な日々を送っていたようだ。
 
 しかし、真珠湾攻撃によって強制収容所に送られる。その多くが太地町の出身者だった。駅舎を眺めるとき、塗炭の苦しみの中、お互いを支え合って生き延びた先人の生き様に思いを馳(は)せる。
 
【茂】

      4月15日の記事

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