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非日常な空間が味わえる 郷愁の旅

鉄道好きな記者の「銀河」乗車体験記

 12月7日新宮駅でコロナ対策の検温を受けてチケットを受け取っている最中、車庫から1番ホームへ「ウエストエクスプレス銀河(以下銀河と記す)」が入線して来た。改札を通り4号車からいよいよ車内へと進む。鉄道好きの私にとってはとてもワクワクする瞬間である。コアな鉄道ファンをはじめとして乗客とおぼしき人は本格的なカメラで写真や動画を撮影している。

「銀河」は今では珍しくなった国鉄時代に京阪神間を「新快速」と走るために製造された117系電車を使用している。その117系電車の内外装を大改造して、夜行特急列車として走り始めてここ紀南地方へも2シーズン目のお目見えである。

指定された座席は3号車の普通車のリクライニングシートだ。4号車のドアから乗り込むと「遊星」と名付けられたフリースペースの明るい車内に木製のテーブルや座席が目に飛び込んできた。そこから指定された3号車へと向かい、「ファミリーキャビン」と呼ばれるコンパートメントタイプの半個室の横を通り抜けて着席した。

9時50分定刻に新宮駅を発車。いつも見慣れた市内の風景も窓の大きい「銀河」から見るととても新鮮な第一印象だ。すぐに王子ヶ浜が車窓に広がった。雄大な太平洋が広がる風景は改めて新宮の絶景だと感じた。御手洗海岸付近は線路の堤防が波打ち際に迫っているため最徐行の区間となっている。他の列車のダイヤとも関係するが、三輪崎までの王子ヶ浜の太平洋のパノラマ区間は全体的に最徐行すればいいと感じた。遠来からの旅行者も当地区から旅立つ人もこの風景は京都行の最初のハイライトだ。

最初の停車駅紀伊勝浦を過ぎて湯川駅へ。和歌山大学のきのくに線活性化プロジェクトに参加する学生や地域住民、JR西日本の社員が海岸側の雑木や草刈りを行って、太地湾を一望する車窓を楽しめるようにしている区間だ。そうこうしているうちに太地駅へ到着。今日は太地駅と串本駅で20分程度の停車時間をとって地元案内や物産販売を行う行程となっている。乗客は思い思いに「銀河」から降りて太地駅の駅舎へ向かう。太地町の観光ガイドさんから太地から多くの町民が移民したアメリカ西海岸・ターミナル島の缶詰工場を模した駅舎で津波の避難防災拠点として町が整備したと聞いて、みんな一様に驚いていた。少々面白かったのは太地駅のホームは築堤上の高い位置にあるので、駅舎のエレベーターが整備される前まで使われていたレトロっぽい階段と坂道に注目する人たちがいたことだ。

 次は浦神湾の入り江の漁村や紀伊大島を望む車窓を楽しみながら古座駅ではもう一つのきのくに線の人気電車「パンダくろしお」新宮行と交換後、串本駅へ到着。しばしの休息の間、先頭車両のヘッドマークや車両側面のロゴマークを眺める。その間に潮岬観光タワー特製「潮岬海の幸山の幸」弁当が車内へと積み込まれ配られる。「海と大地と宇宙(空)の町」というフレーズを描いたパッケージに串本の恵みの近大マグロのてんぷらや古座川ジビエの鹿肉ボロエソーセージ、紀州梅まだいの塩焼きなど地元産物の弁当はとても美味しい。

そして1時間余りの長時間停車の周参見(すさみ)駅へ到着。駅舎を出て少し歩けば海岸だ。そのそばにすさみ町の観光拠点「FRONNTO110」がある。この施設は串本警察署のすさみ幹部交番跡をリノベーションして、アウトドアツーリズムの観光案内や元の取調室や留置場をコワーキングスペースとして整備している。ここで途中下車して温泉で入浴したり海岸散策を楽しむのもありかもしれない。また駅舎にはカフェもあって、昔懐かしいきのくに線で使われていた行先票も展示されている。

白浜駅、紀伊田辺駅と停車して印南駅でも一服停車。藤代駅から「(株)みかんの会」が有田みかんやみかんのはちみつ、チップのお菓子やジュースなど関連商品が4号車のフリースペースで販売された。

海南駅で最後の長時間停車。駅舎にコンビニが併設されていて、このコンビニでは「銀河」がグッズが取り揃えられていた。そして特産品の販売ブースがあって、海南名産のこけらずしと呼ばれる鱧(はも)の柿寿司がふるまわれた。このすしは焼き鱧のみをすりつぶして重ね合わせた箱ずしで、煮詰めた濃いめのたれで味を引き締めているそうだ。このお寿司もたいへん美味しかったが、惜しむらくは夕食前の時間で、日持ちがするならお土産用としてもよかった。

海南駅を発車して、「銀河」は最終行程、京都駅まで向かうが、私は和歌山駅で下車した。いつもの和歌山行きと違って一日長時間乗車した。こんなにゆっくりときのくに線に乗ったのは初めてかもしれない。沿線風景はじめまだまだ知らないきのくに線の魅力を再発見した「銀河」の体験乗車だった。

 
「銀河の外観や車内設備を見て回る」

 「銀河」の車両は製造されて40年余り経っている。その車両をこれまでに四国・高知県の「土佐くろしお鉄道」の中村駅をリノベーションして鉄道界の世界的建築賞である「ブルネル賞」を受賞し、えちごトキめき鉄道のリゾート車両「雪月花」をデザインした(株)イチバンセンの建築家でありデザイナーでもある川西康之氏が改造・設計を手掛けた。外観は往年のブルートレインを思わせる瑠璃紺(るりこん)の車体カラーと先頭部の頭に特急のシンボルとしてライトを配置しヘッドマークを掲げて静観な顔つきにして夜行長距離列車のイメージで「旅」や「遠くへ行く」という雰囲気、「旅情」を醸し出している。

 今回は普通車の座席に乗車したが、人気が高いと伺ったのは1号車のグリーン車指定席「ファーストシート」で前後2席で1人分として、背もたれを倒すとフルフラットにもなる席である。

2号車は女性専用車両で普通車指定席だがリクライニングシートが広く、九州へ行く新幹線「みずほ」の指定席シートのように前後の間隔も広くゆったり乗車できる。工夫されているなと思ったのは女性専用車両ということもあってシートが少しずつ千鳥配置されていて他の席の乗客の視線が合わないようにされていた。2号車の半室(こちらも女性専用)と5号車の普通車指定席は「クシェット」というタイプでのびのび座席とも称され、昔のブルートレインのB寝台タイプの席だ。

 3号車は私も乗車した普通車指定席でリクライニングシートは2号車女性専用車両と同様のシートだが千鳥配置にはなっていない。3号車の半室は「ファミリーキャビン」と呼ばれ、大きなベンチシートでこのベンチシートを広げればマットレスのようになって家族連れやグループで利用できる個室になっている。

 4号車は「遊星」と名付けられたフリースペースで昼夜を問わず明るい車内のため、長時間利用の際の息抜きできるようになっている。また4つのボックス席では将棋やチェスなどのゲームの盤面がテーブルに刻まれていたり、木製のベンチシートの一角には「炉」を切っていて茶を楽しめるようにもなっているが、残念ながらこれらの設備はコロナ禍の運行のため未だ未使用とのこと。

そしてもう1両人気が高いのは6号車のグリーン車個室「プレミアルーム」で台形状の工夫された個室だがプライベート空間が確保でき、斜めに配置された座席からは車窓が特にワイドに感じられる。この6号車には「彗星」とネーミングされたフリースペースがあり、新宮行では前面展望が堪能できる。

「銀河」全体に往年の大阪発着のブルートレイン・「明星」や「彗星」のヘッドマークがあしらわれ、ソーシャルディスタンスを保つように促すサインもヘッドマーク風に配置されている。ボックス座席の背面や車両の壁面にもJR西日本管内を走った名車両が描かれ、まるで京都鉄道博物館へ誘われているようだった。

 
「銀河」の継続運行へ向けて「地域」が取り組む課題

 車中でこの「銀河」の乗車ツアーを担当する(株)日本旅行の添乗員さんにお話を伺った。「紀南コース」はやっぱり海の車窓が素晴らしいとのこと。そして「銀河」に乗ることを第一の目的にしているお客様も多いが、紀南地方へ到着したその後をいかに過ごすか、その選択肢を示すことができれば、「銀河」の今後の集客に期待でき継続運行につながるのでないかとのアドバイスも話してくれた。

 例えば瀞峡川舟クルーズなどを組み込んだ熊野御坊南海バスのツアーがコラボしているが、日本で唯一の飛び地の村の北山村や北山川が大蛇行している熊野市紀和町木津呂地区なども含めた山の風景を堪能できるコースの設定や王子ヶ浜から熊野古道の高野坂へ至る海の風景のウォーキングツアー、また「銀河」と奈良交通バスの「新宮大和八木線」の日本一の長距離バス路線をタイアップさせ紀伊半島縦断コースのような往路と復路を趣の違う楽しみを提供するなど京阪神地域の人々を含め遠来の地域の人がまだ実際に体験した事のない紀伊半島南部を訪れるきっかけとなるような話題づくりをどんどん打ち出してはどうか。

 加えてJR西日本和歌山支社や和歌山県、那智勝浦町、それに和歌山大学きのくに線活性化プロジェクトが実施した那智勝浦町内の湯川駅周辺や狗子ノ川付近の海岸の雑木の伐採や草刈り、清掃を行い、車窓景観の改善に努めた事例を、王子ヶ浜沿線をはじめきのくに線の沿線で地元自治体や地域住民の「地域の力」で海岸風景を美しく生まれ変わらせることも必要。

 現在コロナ第8波ではあるものの旅行需要は旺盛であり、さらに「安全」「安心」に旅ができることが大きなポイントなる。旅行トレンド予測でも「親しみのあるマイクロツーリズム」、「自然を堪能するシンプルな旅の魅力を再発見する」ことが旅を企画する際の動機となると言われている。このような状況を踏まえて魅力の売り出しと息の長い取り組みが求められる。
 
 
「紀南発着~京阪神へ・片道のみの銀河利用も可能に」
 
 これまで「銀河」への乗車は京阪神の駅からのみであったが、このほど2023年3月8日の新宮駅発の便まで紀南地方からも京阪神への旅に「銀河」が利用できるよう紀南発着コースが設定され、片道のみの「銀河」乗車も可能となった。当地域のみなさんにも「銀河」の旅を身近に体験できるようにプラスされた。この機会にクルーズトレインで「汽車旅」を堪能されてみてはいかがでしょうか。

      紀南新聞

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