昔はよく、見えない敵と戦っていた。ただしこれは概念的な、あるいは哲学的な„敵”ではなく、想像で作り上げた私の頭の中にしかいない具体的敵である。母親から言わせれば「ビシュバシュ」と言いながら遊んでいたらしいが、とんでもない。私からすれば砂塵渦巻く大舞台で、あらゆる手を尽くして攻撃してくる敵を軽やかにかわし、時に舞い、時にバリアを張り、時に光線を出し、力の限りを尽くした壮絶な戦いであった。その効果音の一端をあえて記述するなら、まぎれもなく「デュクシ」だろう。
「デュクシ」は少年心そのものである。単なる擬音ではない。光速よりも速く飛ぶパンチ、全ての攻撃を自分なら避けられるという謎の自信と愉悦、客観性など意に介さない主観的な最強といった、子どもの全能感、好奇心、純心、生命力、想像力などすべてが1つに凝縮され、放たれている。大人から言わせればただの子どもの遊び。一瞬の出来事。しかし子どもから言わせれば、今ここにあること、全身全霊の躍動である。
人生の本性が余暇ならば、「デュクシ」こそ人生。想像の翼を広げよう。
【稜】