太地町立くじらの博物館は2日から1年間、開館55周年を記念した企画展「一挙蔵出し!寄贈品展—くじらの博物館を支える資料たち—」を開催している。1969年の開館から現在までの寄贈品から84点を展示し、うち3分の1の26点が初公開。さまざまな経緯で同館に寄せられた品々が、その背景にある人々の思いや願いを物語っている。
博物館の機能には「資料の収集と保存」「調査・研究」「展示と教育普及」があるが、中でも資料収集は博物館が成立するための基盤と言えるほどの重要な機能といえる。同館には、町民をはじめ全国から年間50点以上の自然史・歴史資料や図書、写真など多岐にわたる資料が寄贈される。その一部を並べ、展示説明には寄贈に至った経緯なども記し、寄贈者の思いも一緒に感じられるものとしている。
初公開の品も多い。商業捕鯨時代の8ミリフィルムと撮影機は、捕鯨船でクジラを探す「鯨探士(げいたんし)」だった太地の岡本耕一さんが使っていたもの。当時のクジラ漁の様子が記録されており、展示では第31時南氷洋捕鯨の約70分の映像をDVD化してモニターで放映している。
大型ヒゲクジラのものと思われるオスの鯨類の生殖器のはく製も展示。全長124センチ、最大幅16センチ。北海道の寄贈者の義両親宅に飾られていたもので、野菜の卸売業を営んでいた義両親が知人の漁師より新築祝いで送られたものではないかという。世界各地にある生殖器崇拝と関係する可能性があるが、詳細は不明。
図書資料も展示しており、1969年に平凡社が限定1000部で発行した分厚い書籍「熊野太地浦捕鯨史」のうち、茶色の風呂敷に包まれたものは、小川一郎さんの名で寄贈された。これは、若くして息子の小川さんを亡くした両親が思い出の地である太地の博物館にその名前を残したいと思い、長文の手紙と共に寄贈したもの。
その他、捕鯨に使用された長さ約1.1メートルの銛や解体用の包丁、木彫りのクジラ、日本共同捕鯨株式会社の乗組員の互助会「鯨洋会」の解散記念品なども初出し。また、写真や他の図書資料、クジラの歯・ひげの加工品なども展示。
副館長の学芸員・中江環さんは「寄贈資料が博物館の根底を支えている。資料の1つ1つに寄贈者の方の思いが詰まっていて、それを感じていただきたい」話した。また、「身の回りのものを手放す時には今一度、博物館への寄贈や寄託の選択肢を考えてもらいたい」と伝えている。