「ここへ来てくれてありがとう」ー。熊野へ移住してきていろんな人に何度も言っていただいた言葉だ。そう声を掛けられて単純にうれしい気持ちがしていたが、最近、この言葉が出てくることは実はすごいことなのではないかと思うようになった。
大学で沖縄に行った時も、ワーキングホリデーでオーストラリアに行った時も、そのような言葉はかけられた記憶がない。正直、自分が故郷に住んでいた時も、外の人が来てくれてありがたいという感覚はあまりなかった。もしかするとこれは熊野の人に特徴的な考え方なのかもしれない。
古くより交通の便が悪く、一方で平民から上皇まであらゆる人々を受け入れ続けてきたこの地には、人を歓迎する、あるいは足を運んでくれたことを喜ぶ習慣が根付いている。熊野の人々の土地に対するアイデンティティの強さは沖縄に似たものを感じているが、その上で沖縄の人々は柔和(にゅうわ)な雰囲気の中にも一定の緊張を感じた。熊野の人々は胸襟を開いた会話をしてくれる印象である。
「観光資源」というと味気ないが、目に映る魅力ばかりが全てではない。
【稜】