コロナ禍で厳しい経営状況が続く中、ワクチン接種の機運を高めて業績回復につなげるためには、それぞれの立場で再始動する必要があるだろう。
当地域を支える主幹産業の一つ観光。新宮市の川舟下りや小口自然の家などを運営する熊野川町ふれあい公社によると、昨年は国の緊急事態宣言の発出で4月から5月末にかけて施設を休業していた。それに比べると今年はやや戻りつつあるものの、例年の3~4割程度。高齢者が多く暮らす地域の特性上、都市部からの来訪者に対する住民の不安も考え、ワクチン接種が軌道に乗るまでは積極的な誘客を控えていたが、2回目の接種率も5割を超えるようになると、住民にも変化が見え始め、そろそろ誘客に力を注ぐべきとの空気が流れるようになってきた。しかし、ライバルとなる観光地もいろいろと知恵を絞り、考え動き出している。
全国を見てみると、高齢者を対象としたワクチン接種が進む中、2回の接種を終えた人を対象に商品券配布や割引などの特典を提供する自治体や各種団体、また店舗などが出てきている。一例を挙げると、山梨県の富士河口湖観光連盟は今月15日から割引キャンペーンを始めた。ワクチン接種後に各自治体が発行する証明書をキャンペーン参加対象施設で提示すると、10パーセントの割引を受けることができる。期間は来年7月末までと長い。
今回のワクチン接種は、改正予防接種法により、強制ではなく努力義務だが、こうした特典はワクチン接種率の向上や地域経済の活性化につながる取り組みとして、今後さらに広がりを見せるのではないか。ぜひこの地域でも、観光施設をはじめ、温浴施設や飲食店など多くに広がり、誘客のきっかけになれば。最初は個々に取り組むより、各組合や団体が主導して始める方が次への流れができやすいのでは。
さらに、ワクチン接種証明書を携帯することで、特典を受けるだけでなく、来訪者と受け入れ側双方の安心にもつながるというメリットもある。これまで通り、世界遺産というブランドによるアドバンテージは、もはやないと思った方がよい。新たな競争を意識し、勝ち抜くための知恵を絞ってもらいたい。