任期満了に伴う新宮市長選(10月19日告示、26日投開票)を控え、現職の田岡実千年氏は17日に記者会見し、体調不安を理由に立候補しないことを表明した。田岡氏は2009年の市長選で初当選以来、連続4期16年にわたり市政運営を担ってきた。当初は5期目への意欲を見せていたが、昨年1月に胃がんを患い、その後の経過観察の中で先月、膀胱がんが新たに見つかり、手術を受けていた。「市長職は体力・精神ともに健康でなくてはならない。今後の4年間、このことについて自信が持てない」として、不出馬を決断。「悔しいし残念」と肩を落とした。
田岡氏は、紀伊半島大水害(2011年)や新型コロナウイルス(2020年~)への対応、ハード事業では市内で賛否を二分した文化複合施設(丹鶴ホール)を建設した。さまざまな事業で国や県とのパイプを生かして補助金を獲得し、市の負担を抑えた。一方で、防災対策では、南海トラフ地震への備えとして近隣の沿岸部自治体で建設が進む津波避難タワーには、地元からたびたび要望が寄せられる中でも後ろ向きだった。任期はあと4か月ほどある。常々口にする「市民のだれもが元気で心豊かに暮らせるまち」に向け、ラストスパートをかけてほしい。
田岡氏の不出馬で次期市長選の行方は不透明。これまでに正式に出馬を表明した人はなく、水面下で名前は聞こえるものの、その動向はまだはっきりしていない。田岡市政では災害やコロナ禍に見舞われたが、その分国の交付金等を手厚く得られ、それを原資にさまざまな事業が実施できた。しかし、人口減少と少子高齢化は年々加速。人口は合併後の2006年3月時点で3万3915人だったが、毎年450人程度減少が続いて今年4月末現在で2万5526人。出生数も昨年度は94人と初めて100人を割った。
人口減少が続けば税収が減る。加えて市立医療センターの年間6億円に上る赤字の補填を考えると財政は圧迫し、市民サービス低下など市政運営への影響が懸念される。そのような厳しい状況下で迎える市長選。新たなリーダーにはいきなりの重責となるが、まずはチーム新宮市で乗り切る体制を構築してほしい。財政面ではどうしても国の支援に頼るところが大きく、有利な補助金を獲得するために常にアンテナを張り、交渉できる職員を育成する。庁内に専門チームをつくり、課の枠組みを超えて業務を集中させることも一つの方法ではないか。
中長期的には病院、消防、ごみ処理での広域連携が求められる。新宮市が議会とともにリーダーシップを発揮し、県にも協力を求める中で、周辺自治体に呼び掛け取り組みを進めてもらいたい。