1991年発売の「テングサの歌」というのを初めて聞いた。“紀勢本線 各駅停車~♪”で始まるこの歌、制作者の谷山浩子さんが19歳の時に紀勢本線各駅停車で、三重の鳥羽から大阪の天王寺まで3泊4日の一人旅をした時、3泊目の岩代駅(みなべ町)で鼻歌で作ったのだという。
歌の主人公はテングサ。誰が捨てたのか、誰が忘れたのか分からないが、南部駅の次の岩代駅という無人駅のひとけのないホームの古いベンチに、フワフワと座っている。何万年、何億年経って人類が地球からいなくなっても、ぼんやりしながらずっとそこにとどまっている。その光景を想像するだけで、思わずほほ笑んでしまうようなかわいい歌である。
テングサは寒天やところてんの原料となる海藻で、太平洋側で良質なものが収穫される。海に近い岩代駅にも、どこからか流れ着いたのかもしれない。紀勢本線のほかの駅のベンチには、エビやタコ、マグロなんかがたどり着いていたら誰かが持って帰って食べそう。
【織】