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紀南抄「主観の先の客観」

 取材時、教えてもらったことを反復して言い直すことで認識を確かめる作業がある。その際、相手の言いたいことをより的確に言い当てられる時がある。すると相手は「そうそう、その通り」などと言ってくれる。この時、自分が考えた言葉を相手の言葉として使った方がよいという事態に陥る。記者が紡いだ言葉が新聞に掲載される。この情報に真実性はあるだろうか。
 
 記者が扱っているのは、言葉であって言葉の奥だ。話者が本当に伝えたいことは何か、どうすれば読者に伝わるか。発言をそのまま書くことで誤解を生むケースも少なくない。だから、記者なりに修正する。もはや正解の表現などない。あるのは単に記者の「これが近いだろう」という、よく言えば感性、苦い言い方をすれば主観である。客観性とは主観の排除ではなく、むしろ主観的な感性を突き詰めた先にある。
 
 マスコミの権力の源泉はその辺りにある。主観の交じった情報を客観的な事実のように伝える。大事なのは、書き手が単なる一人間であるということを、読み手も書き手も忘れないことだろう。私が偉そうに言うまでもないが。
 
【稜】

      1月29日の記事

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